取引の「分断」や「一連」とは
「一連計算」と「個別計算」とは?
同じ貸金業者から借りたお金を完済した後、さらにお金を借りて支払いを繰り返す場合があります。
このようなケースで利息制限法に基づく引き直し計算をおこなうときに、すべての取引を1つの取引として続けて計算するのか、それとも、完済がされた時期で取引を分断し、複数の取引として計算するのかということが問題となります。
完済の前後で計算を分けず、すべての取引を1つの取引として続けて計算する方法のことを「一連計算」といい、完済時で取引を「分断」し、複数の取引として計算することを「個別計算」といいます。
どうして計算方法が問題となるかというと、どちらの計算方法によるかによって過払い金の金額が変わるためです。
一連計算で計算した方が、過払い金の金額は大きくなります。また、完済時(分断前)から10年間が経過している場合には、取引の分断が認められて個別計算によるべきとされると、前の取引で生じた過払い金について消滅時効となり、過払い金の返還請求ができなくなってしまいます。
ですから、過払い金返還請求を受けた貸金業者としては、返還する過払い金の金額を減額しようと、取引の分断があるから個別計算をすべきだと反論します。
このように、取引の分断が認められるかどうかは、返還を受けることができる過払い金の金額に大きく影響します。
まず、最高裁判所平成15年7月18日判決は、完済時に別口の借入金が存在していた場合には、過払金を別口の借入金の支払いに充当することを認めました。
この点、最高裁判所平成19年2月13日判決は、借入金を完済して過払金が発生したときに、別口の借入金がない場合に、過払金を次の新しい借入れの支払いに充てるためには、充当に関する特約(過払金充当合意)が存在するなど特段の事情が必要としました。
つまり、過払金の発生時別の借入れがなかった場合に過払金を将来の借入れに充当するためには、そのような充当をするという約束(過払金充当合意)等がなければならず、これがない場合には一連計算は認められないと判断したのです。
基本契約が1つの場合
上記平成19年2月13日判決の後、最高裁判所は、平成19年6月7日判決において、基本契約が締結されている借入契約では、基本契約に過払金充当合意が含まれており、過払金が発生した後に新たな借入れが生じた場合にはその支払いに過払金が充当されること、つまり一連計算をおこなうことを認めました。
これは、カード取引をする消費者としては解約をしない限り当初の取引がずっと続いているという感覚を持つのが普通だと考えられるからです。
ただし、多くの貸金業者は、完済後に取引がおこなわれなかった空白期間があると、一連計算を受け入れずに分断を主張し、反論をしてきます。ひどい場合には、勝手に取引が分断されたと判断して、完済前の取引履歴を開示してこない場合もあります。
また、裁判所も、基本契約が1つであっても空白期間が相当期間ある場合には、そのことから取引の分断を認め、個別計算をすべきと判断する場合があります。
ただし、取引の空白期間は、取引を分断して個別計算すべきか、それとも過払金充当合意が(暗黙のうちに)成立したことを前提として一連計算をすべきかを判断するための判断要素の1つにすぎません。取引の空白期間が相当長い期間あっても、他の事情によっては一連計算が認められることもあります。
基本契約が複数の場合
最高裁判所は、平成20年1月18日判決において、異なる基本契約に基づく取引は、原則として一連計算ではなく個別計算とすべきと判断し、ただし、例外として過払金充当合意が認められる諸事情がある場合には、一連計算をすべきと判断しました。
そして、過払金充当合意の有無を判断するにあたっては、下記の事情を考慮すべきとしています
- 第1の基本契約に基づく貸付けおよび弁済(支払い)が繰り返し行われた期間の長さ
- 第1の基本契約に基づく最後の弁済(完済)から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間
- 第1の基本契約についての契約書の返還の有無
- カードが発行されている場合にはその失効手続の有無
- 第1の基本契約に基づく最後の弁済から第2の基本契約が開始されるまでの間における貸主と借主の接触の状況
- 第2の基本契約が締結されるに至る経緯
- 両基本契約における利率等の契約条件の共通点・相違点
基本契約が1つの場合と異なり、最高裁判所が基本は個別計算と判断しています。特に、取引の空白期間が長い場合には、一連計算の主張が認められないこともあります。
取引の空白期間の長さは、上記の判断要素のうちの1つに過ぎませんが、最も客観的な事情ともいえます。そのため、裁判所に重視されやすい要素といわれています。
基本契約がない場合
基本契約がない場合も、基本契約が複数ある場合と同様です。
諸事情から過払金充当合意がされていたと認められれば、一連計算が認められることがあります。
たとえば、次のような判決があります。
最高裁判所 (平19年7月19日判決)
基本契約がない貸付けであっても、長年にわたって借入れと返済が続けられてい場合は、「当事者は、一つの貸付けを行う際に、切替え及び借増しのための次の貸付けを行うことを想定しているのであり」過払金充当合意が存在すると判断しました。