法人破産した場合の給与・退職金の取り扱い
破産手続きにおける労働者の債権の取り扱いとは?
従業員(労働者)は、使用者である法人(会社)に対して、働いたことの対価を請求する権利(賃金請求権)を持っています。
月々の給与のほか、就業規則等により支払いをすることが決められていれば退職金請求権も発生しますし、従業員が即時解雇される場合には解雇予告手当の支払いを受けることができます。
破産法では、債権者が持っている債権の種類や内容によって、優先順位が決められています。
給与などの賃金請求権は、それを受け取る従業員や家族が生活をしていくのに大変重要なものです。そのため、破産手続きにおいても他の債権よりも優先的な地位が与えられています。
未払いの賃金請求権の地位
未払いの賃金請求権が破産法上どのような地位を与えられるかは、いつ発生した賃金請求権かによって異なってきます。
破産開始決定前3か月以内のもの
破産手続開始決定前3か月以内に支払われるべき賃金請求権は、「財団債権」という債権として取り扱われます。
財団債権」とは、破産債権(他の一般の債権)に優先して、破産手続きによらず随時破産財団から支払いを受ける権利のことをいいます。
つまり、破産手続開始決定前3か月以内に支払期限がある賃金請求権は、破産者の残った財産(破産財団)から支払いを受ける点では他の債権(破産債権)と同じですが、破産手続きの進行にかかわらず支払期限が来れば破産債権に優先して支払いを受けることができます。
破産開始決定前3か月よりも以前のもの
それよりも以前の分―つまり破産手続開始前3か月よりも前の分については、支払期限が来ている賃金請求権は、財団債権ではなく「優先的破産債権」という債権として扱われます。
「優先的破産債権」は、財団債権とは違って、配当手続きによって支払いを受けることになります。ただし、他の一般の破産債権よりも優先して配当を受けることができます。
したがって、破産手続開始前3か月よりも前に支払期限が来ている賃金請求権は、財団債権よりは優先されませんが、他の一般の破産債権よりも優先的に配当を受けることができるとされています。
なお、ここでいう「賃金請求権」には、時間外労働に対する割増賃金(残業代)、法定休日労働に対する割増賃金(休日手当)、深夜労働に対する割増賃金(深夜手当)なども含まれます。
未払いの退職金請求権
退職金についても賃金請求権と同様に、破産手続きにおいて優先的な地位を与えられている部分が一部あります。
すなわち、退職金請求権のうち、退職前3か月分の給与の合計額または破産手続きの開始前3か月分の給料の合計額のどちらか大きい方の金額にあたる部分が財団債権として扱われ、それ以外の部分は優先的破産債権として扱われることとされています。
つまり、退職金請求権のうち、給料の3か月分にあたる金額については、すぐに支払いが受けられますが、それ以外の分については、配当手続きが進むのを待って支払いを受けることになります。ただし、配当を受ける金額については、他の一般の破産債権よりも優先されることになります。
未払いの解雇予告手当請求権
使用者が労働者を解雇する場合には、解雇の日から30日前までに解雇予告をする必要があります。これをしない場合(即時解雇の場合)は、解雇予告手当を支払う必要があります。
この解雇予告手当が支払われないままで、使用者が破産してしまった場合は、解雇予告手当請求権は、優先的破産債権として扱われることとされています。
つまり、未払いの解雇予告手当は、配当手続きが進むのを待って支払われることになります。(配当金額については他の一般の破産債権に優先します)。
未払い賃金の立て替え制度とは?
ところで、賃金等の請求権が破産手続上優先的な地位を与えられ、財団債権や優先的破産債権とされているといっても、いずれも支払いの原資は残った破産者の財産(破産財団)となります。
したがって、破産財団が十分になければ賃金等を支払ってもらうことができないことになります。
しかし、それでは労働者の生活が困難となってしまうことになりますので、未払い賃金立替制度という制度が設けられています。これは、独立行政法人労働者健康安全機構という組織が、破産者に代わって賃金等を立替払いするという制度です。
この制度を利用すると、最大で未払い賃金等の金額の80%の支払いを受けることができます。
ただし、未払い解雇予告手当請求権については、この制度の対象外ですので、この制度を利用して支払いを受けることができません。