慰謝料請求をしたい方-慰謝料請求が権利の濫用になる場合
権利の濫用とは
民法上、自分の権利を行使することについては、原則として自由とされています。
例えば、お客様の配偶者が不貞・不倫行為を行った場合、配偶者やその相手方に対して慰謝料請求をする権利が発生しますが、必ずしもこの権利を行使しなければならないわけではありません。また、仮に300万円の慰謝料を請求できる事情があったとしても、その一部である100万円のみ請求することもお客様の自由です。
しかし、権利の行使の自由にもいくつか例外があります。例外の一つとして、民法1条3項は「権利の濫用は、これを許さない。」と定めています。「濫用」とはみだりに用いることを意味します。
つまり、権利の濫用とは、権利の存在それ自体は否定されないものの、権利の行使が濫用であると評価される場合をさします。例えば、土地の所有者が、自分の所有する土地に大量のごみを放置し、近所に悪臭を放ち続けているようなケースです。土地の所有者であるからと言って、何をしてもよい、ということにはなりません。
では、お客様が、不貞慰謝料を請求する場合、権利の濫用として請求が許されないことはあるのでしょうか。また、どのような場合に許されないのでしょうか。
この問題について判断を示した最高裁判所の判決をご紹介します。
権利の濫用が認められた最高裁判決
最高裁判所平成8年6月18日
夫との不倫女性に対する妻の慰謝料請求において、妻が夫と離婚するつもりである旨を不倫相手の女性に話したことが不倫の原因で、不倫関係を知った妻が、夫の不倫相手の女性に対する暴力を利用して更に金員を要求しているという事情の下では、慰謝料請求は信義則に反し権利の濫用である、という判断を示しています。
この判決は非常に長いので、重要部分を抜粋して紹介いたします。
最高裁判所判決の要点
まず、この事件を第一審からご説明します。
第一審は、妻が夫との不倫女性に対して慰謝料500万円を請求する訴訟を提起したもので、結論として妻の請求を棄却しました。
これに対し、妻が控訴したため、高等裁判所で再度審理が行われ、高等裁判所は100万円の慰謝料を認めました。
それに対し、今度は不倫相手の女性が最高裁判所に上告した、という経過をたどっています。
その上で、最高裁判所は
「上告人(不倫女性)は、X(夫)から婚姻を申し込まれ、これを前提に平成2年9月20日から同年11月末ころまでの間肉体関係を持ったものであるところ、上告人がその当時Xと将来婚姻することができるものと考えたのは、同元年10月ころから頻繁に上告人の経営する居酒屋に客として来るようになった被上告人(妻)が上告人に対し、Xが他の女性と同棲していることなど夫婦関係についての愚痴をこぼし、同2年9月初めころ、Xとの夫婦仲は冷めており、同3年1月には離婚するつもりである旨話したことが原因を成している上、被上告人は、同2年12月1日にXと上告人との右の関係を知るや、上告人に対し,慰謝料として500万円を支払うよう要求し、その後は、単に口頭で支払要求をするにとどまらず、同月3日から4日にかけてのXの暴力による上告人に対する500万円の要求行為を利用し、同月6日ころ及び9日ころには、上告人の経営する居酒屋において、単独で又はXと共に嫌がらせをして500万円を要求したが、上告人がその要求に応じなかったため、本件訴訟を提起したというのであり、これらの事情を総合して勘案するときは、仮に被上告人が上告人に対してなにがしかの損害賠償請求権を有するとしても、これを行使することは、信義誠実の原則に反し権利の濫用として許されないものというべきである。」と不貞慰謝料の請求を信義誠実の原則に反し権利の濫用として許されないという結論を出しました。
なぜ、そのような結論となったのかを次項でご説明したいと思います。
不貞慰謝料請求が権利の濫用と認められた理由
上記最高裁判所判決が特に重視した事実は
「上告人に対し、慰謝料として500万円を支払うよう要求し、その後は、単に口頭で支払要求をするにとどまらず、同月3日から4日にかけてのXの暴力による上告人に対する500万円の要求行為を利用し、同月6日ころ及び9日ころには、上告人の経営する居酒屋において、単独で又はXと共に嫌がらせをして500万円を要求した」
という、夫婦がそろって、しかも暴力を利用して不倫女性に対して慰謝料の支払を強要してきた事実と思われます。
なお、裁判の中では、妻が不倫相手に500万円を請求し、不倫相手がこれを拒否したところ、不倫相手の胸ぐらを掴み、両手で首を絞めつけ、腹を殴るなどの暴行を加えた等の事実が認定されています。
通常、不貞・不倫行為を行った夫が妻の慰謝料請求を、暴力を使ってまで手助けするということは考えられない事態であり、かなり悪質な美人局(つつもたせ)類似の事件と評価されることもあります。
その意味ではこの最高裁判所の事件は非常にレアケースを扱ったものであり、不貞慰謝料請求が権利の濫用と評価されるケースはめったにないと考えられます。
なお、本件と同様に、権利濫用論を用いて原告側の請求を棄却した例として、東京地方裁判所平成26年9月29日があります。この事案は、原告(夫)が、借金問題のほか、女性問題及び過度の飲酒などの問題を度々起こし、耐えかねた妻が被告と不貞行為に及んだ事案であり、裁判所は、妻が不貞関係を持つにいたった原因は原告の引き起こした問題にあることは明らかであると判断し、原告の請求を棄却しました。
このように、慰謝料の請求が権利濫用に該当し、認められないケースもあります。もっとも、権利の行使はあくまでも自由なのが原則であり、実際に慰謝料の請求が権利濫用にあたると判断されるケースはほとんどありません。
しかし、権利の濫用にはあたらなくとも、暴力的な請求を行えば、恐喝罪にあたり、刑事的な処罰を受ける可能性がありますし、そこまではいかなくとも、慰謝料の減額理由となってしまうおそれがあります。
特に 不貞行為が発覚した後、相手方の勤務先に電話をかけるなどの嫌がらせをした場合、そのこと自体が不法行為に該当したり、慰謝料の減額事由になると判断される可能性は否定できません。
冷静に相手方にこちらの落ち度を見せることなく慰謝料を請求するためには、弁護士に依頼することが一番です。
不貞・不倫行為が発覚した場合、ご自分で対応しようとせずに、経験豊富な当事務所の弁護士に依頼されることがこそが、より多くの慰謝料を支払わせるためのポイントとなります。
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当事務所サービスエリア(千葉県の裁判所管轄と裁判所所在地)
千葉/水戸地方・家庭裁判所管轄区域一覧
本庁 | 支部 | 管轄地域 |
---|---|---|
千葉地方・家庭裁判所 | 千葉市(中央区、花見川区、稲毛区、若葉区、緑区、美浜区)、習志野市、市原市、八千代市、市川市、船橋市、浦安市 | |
佐倉支部 | 佐倉市、成田市、四街道市、八街市、印西市、白井市、富里市、印旛郡(酒々井町、栄町) | |
一宮支部 | 茂原市、勝浦市、いすみ市、長生郡(一宮町、睦沢町、長生村、白子町、長柄町、長南町)、夷隅郡(大多喜町、御宿町) | |
松戸支部 | 松戸市、野田市、柏市、流山市、我孫子市、鎌ケ谷市 | |
木更津支部 | 木更津市、君津市、富津市、袖ヶ浦市 | |
館山支部 | 館山市、鴨川市、南房総市、安房郡(鋸南町) | |
八日市場支部 | 匝瑳市、香取郡(多古町)、山武郡(芝山町、横芝光町、九十九里町)、銚子市、旭市(旧旭市、旧海上郡海上町、旧海上郡飯岡町)、東金市、山武市、大網白里市、 | |
佐原支部 | 香取市、旭市(旧香取郡干潟町)、香取郡(神崎町、東庄町) | |
水戸地方・家庭裁判所 | 水戸市,ひたちなか市,那珂市,鉾田市、小美玉市の内 旧東茨城郡小川町,旧東茨城郡美野里町、那珂郡(東海村),久慈郡(大子町)、 東茨城郡の内 茨城町,大洗町,城里町(七会支所の所管区域を除く。) |
|
日立支部 | 日立市,高萩市,北茨城市 | |
土浦支部 | 土浦市,つくば市、つくばみらい市、 かすみがうら市の内 旧新治郡霞ヶ浦町、 稲敷郡の内 阿見町 美浦村、石岡市、 かすみがうら市の内 旧新治郡千代田町、 小美玉市の内 旧新治郡玉里村 |
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龍ケ崎支部 | 龍ケ崎市,牛久市,稲敷市 、 稲敷郡の内 河内町、 取手市、守谷市、北相馬郡(利根町) |
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麻生支部 | 鹿嶋市,潮来市,神栖市,行方市 | |
下妻支部 | 下妻市,常総市,結城郡(八千代町)、結城市,筑西市、 桜川市の内 旧真壁郡真壁町、旧真壁郡大和村、 古河市、坂東市、猿島郡(五霞町 境町) |
千葉/水戸地方・家庭裁判所所在地一覧
本庁 | 支部 | 管轄地域 |
---|---|---|
千葉地方・家庭裁判所 | 千葉県千葉市中央区中央4-11-27(JR総武線・内房線・外房線千葉駅から徒歩15分、京成千葉線千葉中央駅から徒歩8分) | |
佐倉支部 | 千葉県佐倉市弥勒町92(JR総武本線佐倉駅から徒歩30分、京成本線京成佐倉駅から徒歩15分) | |
一宮支部 | 千葉県長生郡一宮町一宮2791(JR外房線上総一ノ宮駅から徒歩3分) | |
松戸支部 | 千葉県松戸市岩瀬無番地(JR常磐線松戸駅から徒歩7分) | |
木更津支部 | 千葉県木更津市新田2-5-1(JR内房線木更津駅から徒歩8分 | |
館山支部 | 千葉県館山市北条1073(JR内房線館山駅から徒歩15分) | |
八日市場支部 | 千葉県匝瑳市八日市場イ2760(JR総武本線八日市場駅から徒歩15分) | |
佐原支部 | 千葉県香取市佐原イ3375(JR成田線佐原駅から徒歩15分) | |
水戸地方・家庭裁判所 | 茨城県水戸市大町1-1-38(JR常磐線水戸駅北口徒歩約10分) | |
日立支部 | 茨城県日立市幸町2-10-12(JR常磐線日立駅中央口から徒歩約10分) | |
土浦支部 | 茨城県土浦市中央1-13-12(JR常磐線土浦駅西口から徒歩約15分) | |
龍ケ崎支部 | 茨城県龍ケ崎市4918(JR常磐線佐貫駅から関東鉄道竜ヶ崎線竜ヶ崎駅下車徒歩約20分, 又は竜ヶ崎駅からバス(江戸崎行き等)乗車5分,観音前停留所下車徒歩3分) |
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麻生支部 | 茨城県行方市麻生143(JR鹿島線潮来駅から車,タクシーで約20分) | |
下妻支部 | 茨城県下妻市下妻乙99(関東鉄道常総線下妻駅から徒歩約15分) |