債権回収と債権者代位権
1.債権者代位権とは
債権者は、債務者が支払を怠っているときは、訴訟を提起し、支払を命じる判決を取得し、その判決に基づいて債務者の財産を換価して、そこから強制的に債権を回収することができます(強制執行)。
しかし、強制執行の対象となる財産が債権の場合、時効の問題があります。
具体例を挙げて説明しましょう。
AはBに対して200万円の貸金債権を有し、BはCに対して200万円の売掛代金債権を有しています。
そして、Bにはこの売掛代金債権以外にめぼしい財産はありません。
このとき、Bが債権管理を何もしていなかったとしたらどうなるでしょうか。
支払期限から一定の期間が経過すれば、BのCに対する売掛代金債権は時効によって消滅してしまいます。
その結果、Bの財産はゼロになるので、Aは債権を回収することができなくなってしまいます。
上記の例で分かるとおり、債務者が債権管理をきちんと行っていないと、債務者の財産が減少し、その結果、強制執行をしても債権者の債権回収ができなくなるおそれがあります。
このような場合に備えて民法は、債権者が債務者に代わって、債務者の保有する権利を代わりに行使できる制度を設けました。
これを「債権者代位権」と言います。
以下、債権者代位権の要件と活用方法について説明します。
2.債権者代位権の要件
債権者代位権行使の要件は、
1.保全されるべき債権(被保全債権)の存在
2.被保全債権の履行期が到来
3.債権者の「債権を保全する」必要があること(保全の必要性)
4.代位する債権を債務者が行使していないこと(債務者の権利不行使)
の4つです。以下、各要件について詳しく説明いたします。
1.保全債権の存在
被保全債権は、原則として金銭の支払を目的とした債権(金銭債権)である必要があります。
これは、債権者代位権は、債権者が強制執行をして債権の回収を図るために、債務者の財産を維持するための制度と考えられていたからです。
しかし、金銭債権以外の一定の債権についても被保全債権となり、債権者代位を認められることがあるというのが現在の判例実務です。このようなケースのことを特に「債権者代位権の転用」といいます。
2.被保全債権の履行期の到来
法律上、債権者代位権は、被保全債権の履行期が到来していなければ、原則として行使することができないと規定されています(民法423条2項本文)。
しかし、裁判所の許可を得て行使する場合、(民法423条2項本文参照)と債務者の財産の現状を維持する必要がある場合は例外が認められています(「保存行為」(民法423条2項ただし書))。
後者は、冒頭の例のような場合に、債務者の持つ債権の時効を中断させるために行われます。
3.保全の必要性
保全の必要性とは、債務者の資力が十分でないために、債権者が債権の回収を完全に行うことができない状況にあることをいいます。
債務者の資力が十分であれば、債権者代位権の行為を認める必要がないからです。
4.債務者の権利不行使
債務者が権利行使をしているのであれば、債権者が代位行使をする必要がありません。
なお、債務者が権利を行使していないといっても、「債務者の一身に専属する権利」(一身専属権)については、債権者代位権を行使することはできません(民法423条1項ただし書)。
一身専属権とは、その権利を行使するかどうか債務者自身の意思に任せるべきものだと説明されています。
例えば、身分関係から生じる権利(婚姻や養子縁組の取り消し等)や、名誉毀損等の人格権侵害による慰謝料請求権(民法710条参照)は一身専属権と解されています(もっとも、被害者が慰謝料請求権を行使する意思を表示し、具体的な金額が確定すれば、代位権行使が可能になります)。
このような代位行使ができない権利でなければ、金銭や物に関する債権はもちろん、解除権、取消権、相殺権などの権利も代位行使できます。
3.債権者代位権を活用した債権回収
債権者代位権が行使して取り立てたものは、債務者に帰属するものとされています。
例えば、賃貸借契約終了に基づく建物明渡請求権を代位行使した場合は、建物の明渡しを受けるのは、債務者でなければなりません。
ただし、代位行使した債権が金銭債権の場合、直接債権者が金銭を受領することが可能であり、自己の債権と債務者の金銭返還請求権を相殺(民法505条1項)することによって、事実上優先して支払を受けることが可能となります。
したがって、債務者の有する債権が金銭債権である場合には、債権者代位権を行使する債権者にとって大変有利な制度になります。
なお、債権者代位権の行使によって、取り立てることができる債務者の債権の範囲は、債権者の被保全債権の額に限定されるとされています。
例えば、被保全債権が200万円で、債務者の債権額が300万円だった場合、債権者が支払を受けることができるのは200万円までになります。
これに対し、代位行使する債務者の債権が壺(300万円相当)の引渡請求権だった場合、「この壺のうち、200万円分を取り立てる」ということはできません。
このような場合には、例外的に、その債権の全部(ここでいう壺の引渡請求権)を行使することができると解されています。
【注意】
弊所では、債権回収業務について、事業性資金(事業により発生した債権(例:工事代金、売買代金、診療報酬などの売掛金や賃料・リース料など))の回収業務のみをお受けしております。個人間・親族間の貸付け等(親子間の貸付けや、個人的な貸付け)の債権回収は受け付けておりません。予めご了承ください。