建設業の債権回収
1.ご相談例
(相談内容)
当社は、大手建設会社の下請建設会社A社から孫請けとして多数の工事を請け負っていました。
A社は、最初こそ工事の発注書を発行しますが、追加変更工事が発生しても、一切発注書を発行してくれませんでした。
しかも発注書の金額は、こちらが見積もった金額を理由無く3割カットした金額であり、これでは利益は1円も出ないばかりか、むしろ赤字となります。
担当者が、後できちんと埋め合わせをするから安心しろ、これが正式な代金額ではない、と言うので渋々引き受けました。
ところが、工事が完了してから2か月経過しても「待ってくれ」と言うばかりで、一向に支払をしてくれません。請求額も300万円を超えていますので、早急に回収したいと考えています。
(回答)
建設業法という法律が下請事業者の保護のために様々なルールを定めています。A社の対応は建設業法に違反するものがありますので、それを交渉材料とすることで有利に交渉を進めることができます。
以下、建設業法について説明いたします。
2.建設業法による下請保護のルール
建設業法では、各種の下請保護のルールが定められています。
①見積条件を提示すること(20条3項)
下請人に見積りをさせる場合には、工事内容を具体的に提示し、必要な期間を確保しなければなりません。
②書面による契約締結(18条、19条1項2項、19条の3)
下請工事の着工前に、建設業法所定の事項を記載した書面で契約を締結する必要があります。契約書の形でなくとも、工事代金等を記載した書面の取り交わしが求められます。
③不当に低い請負代金禁止(19条の3)
元請人が、取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金とする契約を締結することは禁止されています。
④指値発注の禁止(18条、19条1項、19条の3、20条3項)
元請人が、一方的に決めた金額で下請契約を締結させることは禁止されています。
⑤やりなおし工事の下請負人負担の禁止(18条、19条2項、19条の3)
元請人の指示どおりに施工した場合など、下請負人に過失がないにもかかわらず工事がやりなおしになってしまった場合、下請負人にやりなおし分の費用を負担させることを禁止しています。
⑥支払留保の禁止(24条の3、24条の5)
工事完了後、不当に長期間下請代金を支払わない(留保する)ことは禁止されています。
一般に、元請人が発注元から請負代金の支払を受けた場合、その後1か月が下請業者への支払期限とされています。
これ以上長い支払期限は違反となる可能性があります。
先ほどのご相談例にてらすと、A社は、③、④、⑥に違犯している可能性があります。
3.建設業法違反の効果
上記のとおり、A社は建築業法に違反しています。
では、違反したことがお客様の債権回収にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
結論から申し上げますと、建設業法に違反しているからと言って、直ちにA社から適切な代金が払ってもらえるというものではありません。
交渉に応じなければ、訴訟を提起して判決を得るという通常訴訟の手続をとる必要があります。
しかし、普通の債権回収と異なる点は、行政の力を借りることができるというところです。
具体的には、建設業違反を都道府県に申告し、A社を調査してもらい、指導・助言・勧告をしてもらうことができます。これがA社への圧力となります。
建設業法違反によって、公共事業の指名停止処分を受ける場合もありますので、相手方が公共事業をしているようなケースでは効果があります。
また、場合によっては、独占禁止法違反にもあたるということで、公正取引委員会から勧告等の処分を引き出すことも可能かもしれません。
それでも相手方が払わない場合は、最終的には訴訟を提起するしかありません。
ただし、今回のように、値段がはっきりしない工事代金については、金額が争点になる可能性が高いです。
そこで、A社の幹部・担当者と話をする機会をもうけ、代金額についての相手方の言い分を録音する等して証拠保全に努めてから、訴訟を提起した方がよいでしょう。
また、契約書など証拠となる書類がないため、契約の内容を証明するためには証人尋問を行う必要があります。
これは弁護士でないと十分な効果を挙げることができないと思われます。
今回のようなケースで、A社に対して訴訟を提起する際は、経験が豊富な弁護士に依頼すべきと思われます。
【注意】
弊所では、債権回収業務について、事業性資金(事業により発生した債権(例:工事代金、売買代金、診療報酬などの売掛金や賃料・リース料など))の回収業務のみをお受けしております。個人間・親族間の貸付け等(親子間の貸付けや、個人的な貸付け)の債権回収は受け付けておりません。予めご了承ください。