残業代は支払わなければならない?
法律上、残業代の支払い義務がある場合には、会社は従業員に対し、残業代を支払わなければなりません。適正な残業代を支払わない場合、労働基準法違反となります。
以前は「『サービス残業』が当たり前」という風潮もありましたが、近年の社会情勢と労働者の意識の変化により、残業代の未払いに対しては厳しい目が向けられるようになっています。
ここでは、法律上支払うべき残業代を支払わなかった場合の、会社のリスクについて説明します。
1.法令違反による企業イメージの低下
「残業」というものは法律で禁止されています。
残業が適法となるためには、所定労働時間を超えた労働をすることについて、労働者の代表と話しあって協定を締結する必要があります。
この労使協定については、労働基準法36条に規定されており、一般的には「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
従業員と会社の間の協定(労使協定)の一つである36協定を締結することによって、経営者は従業員に対して時間外労働や休日労働をさせることができるようになります。
この「時間外・休日労働に関する協定」(36協定)は毎年所轄の労働基準監督署に提出することになっています。労使協定を所轄労働基準監督署に未届けであった場合、30万円以下の罰金が処せられます。
しかしながら、平成25年の厚生労働省労働基準局調査によりますと、中小企業のおよそ6割がこの36協定を締結していない状況で、その内半数が時間外労働をさせている状況になっています。
このように、労働基準法に違反している企業は、厚生労働省ホームページの企業リスト(いわゆる「ブラック企業」リスト)に登録されて一般に公表されてしまう場合もあります。
そうなってしまった場合、世間から厳しい目が向けられることになり、企業イメージが悪化するおそれがあります。また、長期的に見て、企業を支える人材を確保するのが難しくなる可能性もあるため、経営上重大な問題であるといえるでしょう。
2.経済的負担の増大
残業代の請求事件では、実際に未払となっている額以上に、会社が支払い義務を負う場合が多いと言えます。
(1) 遅延損害金
法律上、未払い残業代は、不払いがあったときから、年利6パーセントの遅延損害金を請求することができます。
実際には、会社を辞めた後に従業員が未払い残業代を請求する例が多いことから、期間の経過により、相当高額な遅延損害金を支払わざるを得ない事案も多いと言えるでしょう。
残業代の請求を受けた場合には、遅延損害金が膨らまないよう、早期に解決することが重要となります。
(2) 付加金について
未払い残業代をめぐる紛争が裁判になり、会社側が負けた場合、会社は、未支給の残業手当賃金とは別に、「付加金」というのを従業員に支払わなくてはなりません(労働基準法114条)。
この付加金は会社に対する一種のペナルティであり、未支給の残業代金と同額を支払う必要があります。つまり、未払い額が100万円だった場合にはその同額である100万円を支払わないといけないということになります。
このように、裁判になってしまった場合、遅延損害金と付加金の双方を請求され、未払い残業代の倍以上の負担をすることになるリスクがあります。
3.労働基準法違反の罰則
残業代不払いなどの労働基準法違反がある場合、会社及び責任者に対して、以下のような罰則が科される可能性があります。
(1) 6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるケース
- 法定労働時間を守らなかった場合
- 有害業務に2時間以上を超えて残業させた場合
- 割増賃金を支払わなかった場合
- 年少者に深夜業をさせた場合
- 妊産婦から残業をしたくないという申し出があったにもかかわらず、残業等をさせた場合
- 各種変形労働時間制の協定届を出していない場合
- 事業場外のみなし裁量労働制の労使協定の届け出をしていない場合
- 専門業務型裁量労働制の労使協定の届け出をしていない場合
労基署が必要と判断した場合、会社に対して立ち入り調査が行われます。
法令違反があった場合、労基署は会社に対して是正勧告を出します。それでも違反が是正されないような場合は、会社及び責任者が検察に対して書類送検されることになります。
労基署の立ち入り調査が行われた場合、その後に罰則が科せられなかったとしても、他の従業員に大きな動揺を与えてしまうことが予想されます。
このような事態になる前に、速やかに法令上の問題を解決・改善しておく必要があると言えるでしょう。
【注意】
弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。 利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。
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