未払残業代請求を防ぐために
未払い残業代を請求された場合、裁判実務では、企業側の反論は認められない場合も少なからずあるのが実情です。
未払い残業代を請求された場合、2年間の消滅時効が定められているものの、割増率等の影響もあって、相応の金額になることも多いといえます。
また、1人の労働者からの残業代請求をきっかけとして、他の労働者や既に退職をした労働者からの未払い残業代の請求に波及するケースも多く、残業代に関するトラブルは企業経営に大きな影響を与える場合も少なくありません。
そのため、企業の法務・人事担当者としては、以下の点に注意する必要があります。
1.労務管理の徹底と不必要な残業の禁止
会社としては、不必要な残業をさせないため、しっかりとした労務管理を徹底することが肝要です。
実際に、裁判例の中にも、いわゆる36協定が締結されていない事案で、36協定が締結されるまで残業を禁止する旨の命令を使用者が繰り返し発令しており、かつ残務がある場合には役職者に引き継ぐことを徹底していたことから、残業禁止の業務命令に反して行われた時間外または深夜の業務時間について、労働時間性を否定する判断が示されたものがあります(神代学園ミューズ音楽院事件・東京高等裁判所平成17年3月30日判決)。
このように、残業を禁止するのであれば、①残業を禁止する旨の命令を繰り返し発令し、②残務がある場合には引き継ぐことを徹底すること、かつ③これらの事実を裏付ける証拠をしっかりと保存しておくことが必要となります。
これにより、少なくとも残業禁止命令に反して行われた残業を理由とする残業代の請求については、反論をすることが可能となるので、労務管理を徹底することが重要です。
なお、実務的には、残業禁止命令を発令しながら、労働者が残業を行っているのを黙認したり、そもそも残業しなければできない業務を指示しているような場合には、使用者の指揮命令下の労働として労働時間と判断される場合もあるので、労働者の管理監督を怠らないことが必要です。
2.時間外労働が必要な場合、適切に管理する
このように日頃から不必要な残業を防止するため労務管理を徹底したとしても、業務の都合上、労働者に対し時間外労働を指示する必要が生じる場合もあるかと思います。
そのような場合であっても、割増率の高い深夜労働や休日労働にはならないように、しっかりと残業を指示する時間を管理した上で、時間外労働事実を記録し、保管しておくことが大切です。
「実際にどれだけ残業をしていたか」を会社が把握し、客観的資料を提出できるような体制にしておくことが必要となります。
3.給与・賃金規定の見直し
会社としては、業務の種類や人事政策を踏まえた上で、給与・賃金規定を再検討したり、変形労働時間制や裁量労働制を適切に活用するなどして、戦略的に給与・賃金体系を再構築することも有用といえるでしょう。
変形労働時間制や裁量労働制を適法に運用するためには、法律が定める要件を充足する必要があります。
制度としては採用していたとしても、法律上必要とされる要件を満たしていなかった場合、従業員から未払い残業代を請求された際に、裁判所において無効と判断されてしまうリスクが高いといえます。
実務上、裁量労働制等の有効性については、裁判所は、労働者保護の観点から、厳しい判断をする場合が多いといえます。
新たにこれらの制度の導入を検討する場合、さらには既に導入をしている場合でも、今一度、法律上の要件を充足した適法な制度となっているか、実態との間に齟齬はないか、確認することが重要と思われます。
4.残業の削減は業績の改善に繋がる
最近では、上場会社を中心に残業の削減と労働時間短縮に積極的に取り組む企業が増加しており、残業の削減が業績の改善につながったとの報道もなされています。
高齢社会を迎え、労働人口が減少していく中、いかに有為な人材を確保するかは企業にとって死活問題であるといえます。
労働者である従業員にとって魅力的な労務環境を整備し、提供することは、現在の企業経営に求められる重要な課題の一つであると指摘できます。
したがって、会社としては、「いかに残業代を削減するか」ではなく、「そもそも残業(長時間労働)を削減するためにどのように取り組めばよいか」「業務の効率性を上げるためにはどうすればいいか」といった視点から労務管理のあり方を検討していく必要があるといえるでしょう。
新しい労働時間制度の導入や就業規則の変更等においては、内容及び手続について、法律上の要件を満たしていなければなりません。
そのような場合は、後々のトラブル防止のため、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
弊所では、より良い企業経営を目指す経営者様にお力添えをさせていただくため、各種ご相談や顧問契約のご依頼を承っておりますので、どうぞご利用ください。
【注意】
弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。 利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。
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