残業代請求の争い方
残業代請求をどのような手続きで解決していくかについては、以下の4つの方法があります。
1.労働者との個別交渉
残業代請求において、労働者と使用者で話し合いにより解決する方法です。内容証明郵便による残業代請求が行われた場合、まずはこの個別の労使交渉により解決が図られることが一般的です。
双方がある程度の譲歩をしつつ、数回程度の交渉を経て合意するのが一般的です。場合によっては、弁護士や労働組合員などが立ち会うこともあります。
このように、労働者との交渉のみで合意ができれば、他の手続よりも早期に解決することができるでしょう。
ただし、実際にいくらの残業代が生じているのかを精査することなく、会社側が残業代の支払い義務があることを認めてしまった場合、後に裁判となった際に不利になってしまう可能性があるため、十分な注意が必要です。
2.団体交渉
労使交渉をする際には、単純な二者協議だけではなく、労働組合から団体交渉の申し入れがなされる場合もあります。
労働組合とは、労働者が団結して、賃金や労働時間などの労働条件の改善を図るために結成する団体です。労働組合は、労働組合法により保護され、使用者と労働条件に関して団体交渉を行う権利や、使用者との間で労働協約を締結する権限が与えられています。
労働組合には、企業内組合の他、定地域の労働者が連帯する形で組織された労働組合(コミュニティ・ユニオン)も存在します。
使用者は、労働組合からの正当な交渉申入れがあった場合、原則として団体交渉に応じる義務があります。
残業代請求は、賃金に関する問題であるため、団体交渉に応じなくてはなりません(義務的団交事項)。
使用者は労働組合と誠実に交渉する義務を負い、団体交渉の拒否は、労働組合法上の不当労働行為に該当します(労働組合法7条2項)。不当労働行為があった場合、労働委員会に対する不当労働行為に対する救済を申し立てられるおそれがあるため、団体交渉への対応は慎重かつ誠実に行うことが必要です。
また、団体交渉を行うに当たっては、日時や場所、交渉の進め方(ルール)、議事録の記録(録音)、資料の提出等、様々な点に配慮して行う必要があります。対応の仕方によっては会社側に不利になってしまう可能性もありますので、団体交渉の準備にあたっては、弁護士などの専門家に相談した方が良いでしょう。
3.労働審判
労働者側から労働審判を申し立てられる場合があります。
労働審判とは、労働者と使用者との間で起きた労使紛争について、労働審判官1名と労働審判員2名が審理し、迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする裁判所の手続です。原則として3回以内、約2~3か月で終結するため、裁判と比較して当事者の負担が少ないと言えます。
もっとも、実際には第1回期日で事実審理が終了し、大半の場合、その期日をもって労働委員会の心証が決定されることになります。そのため、そのため、事前に主張立証の準備を十分に行った上で第1回期日に臨むことが必要となります。
時間的な制約がある中で、これらの準備を会社のみで行うのは困難であるといえます。労働審判を申し立てられた場合、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。
4.裁判
労働者が裁判を起こしてくる場合があります。
個別の交渉がまとまらなかった場合や、労働審判の結果に異議の申立てをされた場合のほか、最初から裁判を起こしてくることもあり得ます。
未払い残業代請求の事件は、通常の裁判所で審理されます。
まず、労働者が原告となり、被告である使用者に対して、未払い残業代の支払い等を求める旨の訴状を裁判所に提出します。訴状は裁判所で審理がなされたのち、被告あてに送達されます。
被告は、期限までに原告の主張に対する反論を記載した答弁書を提出しなければなりません。
裁判の期日では、原告・被告双方が主張立証を行います。審理の途中で、裁判官から和解を勧められる場合もあります。
最終的には、和解もしくは判決により結論が出て終了となります。判決は、期間内に控訴(不服申立て)がされなければ確定します。
裁判となった場合、平均して1年、複雑な事案であれば2~3年、あるいはそれ以上の時間がかかることもあります。
5.まとめ
労使紛争の解決方法は上記のような手続がありますが、どのような手段により解決を図るかは、請求を行う労働者側に選択権があります。
紛争がそのような経過をたどっても、その都度適切に対応するためには、請求を受けた時点で弁護士に相談しておいた方が良いといえるでしょう。
【注意】
弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。 利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。
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