セクハラと会社の責任
会社はセクハラを防止する措置を講じる義務を負っています。従業員がセクハラ行為を行った場合、会社も法的責任を負う場合があります。
1.男女雇用機会均等法におけるセクハラ防止義務
男女雇用機会均等法11条では、事業主は、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により労働者が不利益を受け、労働者の就業環境が害されることのないよう、必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定められています。
この規定により、会社はセクハラを防止する措置を講じる義務を負っています。
また、厚生労働省が発表している「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」では、事業主が講ずべきセクハラ対策について措置の内容が紹介されています。
具体的には、事業主は従業員に対してセクハラを防止する措置を講じていくことを明確に示すことや、セクハラを相談できる体制を整備することなどが必要であるとされています。
2.セクハラの加害者の責任
(1) 刑事上の責任
セクハラ行為を行った加害者は、刑事上の責任を負う可能性があります。
被害者が反抗できなくなるような暴力や脅迫行為を用いて、性的行為を強要した場合には、加害者には強制性交等罪(刑法177条)や強制わいせつ罪(刑法176条)が成立します。
たとえば、女性が嫌がっているのに無理やり胸に触るような行為は強制わいせつ罪にあたります。
また、強制性交等罪や強制わいせつ罪にあたらない場合でも、セクハラ行為の際に暴行を伴っていれば、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)が成立します。
また、発言の内容によって名誉毀損罪や侮辱罪が成立することもあります。
たとえば、職場の中で、「あの人は不倫をしている」とか「あの人の異性関係は乱れている」などと噂をすれば、名誉毀損罪(刑法230条)か侮辱罪(刑法231条)が成立する可能性があります。仮に噂の内容が真実であったとしても、名誉毀損罪は成立します(実際に不倫をしている人のことを指して「あの人は不倫をしている」と噂をした場合など)。
このように、加害者がどのような種類のセクハラを行ったかによって、成立する罪の内容も異なってきます。
(2) 民事上の責任
セクハラの加害者は、民事上の責任も負います。
具体的には、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任として、加害者は被害者が被った損害を賠償する必要があります。
セクハラの被害者は、加害者によるセクハラ行為によって精神的な苦痛を受けていることから、加害者は、被害者が被った精神的な損害を賠償するために慰謝料を支払うことになります。
また、「あの人は不倫をしている」などと噂をしたことで、被害者に対する周囲の評価が下がった場合には、セクハラの加害者は、被害者の「名誉を汚された」という損害についても賠償する必要があります。
その他にも、セクハラの加害者は会社から何らかの処分を受ける可能性が高くなります。
通常、セクハラ行為は就業規則の懲戒事由に該当しますので、加害者は何らかの懲戒処分を受けることになると考えられます。
3.会社の責任
(1) 使用者責任
会社は、民事法上の責任として、使用者責任(民法715条)を負います。
使用者責任とは、従業員が不法行為により他人に損害を与えた場合に、使用者である会社などもその従業員と共に損害賠償責任を負うという責任のことです。
上述したとおり、セクハラは不法行為に該当することから、会社は、セクハラ行為を行った者と共に被害者に対して損害賠償責任を負います。
(2) 債務不履行責任
また、会社は、従業員との労働契約に基づく付随義務として、従業員が働きやすい労働環境を作る義務を負っています。
セクハラが行われるような職場は労働者にとって働きやすい環境とはいえないので、会社が労働契約に基づく義務を怠ったとして債務不履行責任を負う可能性があります(民法415条)。
(3) 雇用機会均等法上の責任
上記のとおり、会社は男女雇用機会均等法に基づく義務を負っています。
会社内でセクハラがあり、厚生労働大臣の指導を受けたにも関わらず雇用管理の仕方などを是正しない場合には、会社名が公表されることもあります。
このように、従業員のセクハラ行為及びその予防に対して、会社は法的な責任を負っています。
セクハラの防止は会社経営上重要な課題といえるでしょう。
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