解雇の手続き
これまで解説したとおり、労働者を解雇するためには様々な法律上の要件を満たさなければなりません。
そのため、可能であれば、従業員との話し合いの上、合意退職をしてもらった方が良いでしょう。
もっとも、従業員との合意ができない場合、会社側としては解雇の手続を進めることになります。
ここでは、法律に乗っ取って適法に解雇をするために会社がとるべき手続と注意点についてまとめます。
1.就業規則を整備する
「退職に関する事項」は、就業規則の必要的記載事項となっています。「退職」には、解雇に関することも含まれます(労働基準法89条3号)。
したがって、どのような場合に解雇されうるのか、あらかじめ就業規則に記載しておく必要があります。
2.解雇の事由(理由)を確認する
当該労働者が、就業規則に記載された解雇事由に該当するのかを確認する必要があります。
3.解雇の裏付けとなる証拠の収集
裁判で解雇の有効性が争われた場合、会社側が当該従業員の解雇の正当性を裏付ける証拠を提出できないと、従業員側の主張が認められて解雇が無効となってしまう可能性があります。
そのため、従業員に業務上の不手際、就業規則違反があった場合には、当該従業員に顛末書・始末書を書いてもらう、会社から当該従業員に警告書を出すなどの措置により、解雇の正当性を裏付ける証拠を日ごろから集めておく必要があります。
4.解雇禁止期間の確認
労働基準法19条により、下記の期間は解雇はできないため、注意が必要です。
・業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休養する期間及びその後30日間
・産前産後休業期間及びその後30日間
5 解雇理由が法律上許されないかを確認
労働基準法や関係法令等で、解雇の禁止事由が定められています。これらに該当しないか確認する必要があります。
6 30日前予告、30日分の解雇手当
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくともその30日前には、その予告をしなければなりません。
30日前に予告をしない場合には、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(労働基準法20条)。
なお、労働基準法20条、21条には解雇予告が不要な場合についても定められています。
7.普通解雇の場合の手順
普通解雇とは、労働者側の事情に基づく解雇で、労働者の能力不足あるいは適格性の不足、労働者の規律違反などの理由による解雇があげられます。
(1) 普通解雇における客観的合理的理由
ア 能力不足、成績不良、適格性の欠如
能力不足、成績不良、適格性の欠如は、一般に解雇の客観的合理的理由になりますが、単に人事考課が低いといっただけでは、解雇理由にはなりません。
①労働者の能力不足や規律違反の程度が企業の業務遂行や秩序維持に重大な影響を及ぼすものであるかどうか
②労働者に改善の機会を与えたのか、与えた結果改善の見込みがなかったのか
③配置転換などの人事上の措置によって改善されるのか
といったことが重要になります。
労働審判を申し立てられた場合、①については、企業の業務遂行に重大な支障を及ぼしていることを「具体的な事実」を述べて主張・立証する必要があります。
また、②については、書面による注意などの実績、解雇よりも軽い懲戒処分を前置した実績などが必要となります。
イ 規律違反・職務懈怠
職場秩序に反する非違行為や、職務規律違反なども解雇の客観的合理的理由となります。
(2) 社会的相当性
合理的な解雇理由が備わっていても、裁判所は、当該労働者を解雇することが過酷ではないのか、という観点から判断します。
軽微な規律違反を理由に解雇したような場合、相当性を欠くと判断される場合があります。
8.懲戒解雇
懲戒解雇とは、社内の秩序を著しく乱した労働者に対する制裁として行う解雇のことで、最も重い処分です。
懲戒解雇については、労働契約法16条の要件を満たす必要があるほか、当該懲戒が、労働者の行為の性質や態様等の事情に照らして、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が認められるものであることが必要となります(労働契約法15条)。
(1) 就業規則に懲戒処分の事由及び種類が定められていること
懲戒解雇が有効とされるためには、「客観的合理的な理由」が必要です。具体的には、当該労働者の行為が就業規則上の懲戒事由・解雇事由の双方に該当する必要があります。
(2) 相当性
相当性判断においては、同じ規定に同じ程度に違反した場合には、同程度の処分を受けるという公平性が求められます。
したがって、懲戒解雇にするためには、同様の事例の先例を踏まえて対応する必要があります。過去には黙認していたり、解雇よりも軽い懲戒処分にしていた行為に対して懲戒処分・懲戒解雇を行うためには、事前の十分な警告や改善の機会を与えることが必要です。
9.整理解雇
解雇は、労働者に帰責事由はなく、使用者側の都合による解雇です。したがって、客観的合理的理由(労働契約法16条)の判断は、整理解雇の4要件に即して考えられます。
【整理解雇の4要件】
・人員削減の必要性
・整理解雇回避努力の履践
・人選の合理性
・手続の妥当性
具体的な内容については解雇のページで改めて説明いたします。
10.解雇理由の説明
解雇トラブルを防ぐために、従業員と十分に話し合い、解雇の理由等について説明を尽くす必要があります。
なお、労働者から解雇理由証明書を請求された場合は、遅滞なくこれを交付しなければなりません(労働基準法22条)。
もっとも、この証明書は後に裁判で争われた時の重要な証拠となるため、専門家に相談した上、慎重に作成する必要があるでしょう。
このように、解雇は法律上厳しく制限されています。
やむを得ず解雇を行う場合には、後にトラブルになるリスクを可能な限り回避できるよう、労働法に精通した専門家に相談して手続を行うことをお勧めします。
【注意】
弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。 利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。