解雇理由(病気による休職・休業)
怪我や病気で休んでいる従業員を解雇できるか、という点について解説します。
1.傷病による労務提供の不能(不完全履行)は解雇事由
従業員が傷病によって雇用契約の本旨に従った労務提供が全くできなくなった場合(履行不能)や一部しかできなくなった場合(不完全履行)は、契約上の債務が不履行となっていますので、これらは原則として普通解雇事由に該当します。
実際に、多くの会社の就業規則では、「身体の障害により業務に堪えられないとき」を普通解雇事由として定めています。
2.業務災害の場合
業務が原因で傷病が発症し、従来の業務が遂行できなくなった場合、労働基準法19条1項本文の解雇制限の規定が適用されるため、療養のために休業する期間およびその後30日間は、原則として解雇することができません。
例外として、療養開始後3年を経過して使用者が打切補償を支払った場合、または傷病補償年金が支給されている場合には、労基法19条1項の解雇制限の規定が適用されなくなるので、業務災害により休業中の労働者でも、法律上解雇は可能となります。
3.私傷病の場合
(1) 私傷病と解雇・休職
業務とは無関係に生じた私生活上の傷病(私傷病)の場合は業務災害の場合とは異なり法律上の解雇制限はありません。普通解雇事由に該当します。
多くの企業が、就業規則に普通解雇事由として、「身体、精神の故障で業務に耐えないとき」という規定を設けています。
もっとも、近年では、休職制度を導入している企業が多く見られます。
休職制度とは、私傷病で欠勤ないし不完全な労務提供が2~3カ月間続いた場合に、就業規則の規定に基づいて、勤続年数に応じた一定期間の休職期間を与え、休職期間満了時に治癒していれば復職を認め、治癒していなければ労働契約を解消するというシステムです。
このような制度により、私傷病により就労できなくなった労働者に対して、事情に応じた柔軟な対応をすることができます。
(2) 解雇の有効性
病気により一時的に職場に堪えられない場合であっても、ただちに解雇できるわけではありません。
解雇が有効であるためには、病気によりある程度長期間にわたり労務提供ができない状態となっていることが必要です。労務提供が不能か否かは、労働者の担当する職務内容につき、医学的観点も考慮して判断されます。
また、労務提供不能の判断は、「現に担当している職務ができないかどうか」だけでなく、他に従事可能な職務があるか否かについても検討する必要があります。
判例(片山組事件)では、職種・職務を限定せずに雇用契約を締結した労働者については、使用者は、労働者から他になし得る職務があるとの申出があり、それが当該労働者を配置できる可能性のある職務であれば、その職務への配転可能性を検討すべきであると解されています。
労働者を現在の職務以外に配置できる現実的な可能性があれば、原職復帰が困難であるという理由だけで解雇することは難しいといえるでしょう。
4.片山組事件(最高裁判所平成10年4月9日判決)
事案の概要:
建築工事現場の現場監督Xが、バセドウ病のため現場作業に従事できない旨を使用者であるY社に申し出たところ、Yが「自宅治療命令」を発し、復帰までの約4か月間を欠勤扱いとして、賃金を支給しないなどの措置をとりました。Xは、上記業務命令は無効であると主張して、賃金等の支払いを請求しました。
裁判所の判断:
裁判所は、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」と判示しました。
その上で、Xは労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認められないこと、本件自宅治療命令を受けた当時、事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたことから、Xが「債務の本旨に従った労務の提供をしなかった」と断定することはできないと判断しています。
本件において、会社Yは、「上告人(X)の能力、経験、地位、被上告人(Y)の規模、業種、被上告人における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして上告人が配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。」としています。
なお、同事件の一審判決は、賃金請求について、Yに、職場の安全管理および秩序維持の観点からXの就労を拒否すべき格別の事情は認められず、相当性を欠くとしてXの請求を認めましたが、二審判決は、賃金請求につき、私病による不完全な労務の提供は、債務の本旨に従った履行の提供とはいえないから、原則として使用者は労務の受領を拒否し、賃金支払い義務を免れるとし、Xの提供できる事務作業は、量的、質的にわずかであったから、Yがその就労を拒否したとしても信義則に違反するものではない、として一審判決の一部を取り消しています。
そして、本判決は、二審判決がXが「債務の本旨に従った労務の提供」をしなかったと断定したことに誤りがあるとし、二審判決を破棄(差戻し)しました。
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