成年後見制度の利用3(任意後見制度)
1.任意後見制度とは
成年後見制度は、裁判所が、後見開始申立に基づいて、本人の意思とは無関係に成年後見人を選任する制度です。
このような成年後見制度と異なり、任意後見制度は、本人が自分の意思で締結した任意後見契約に基づいて、成年後見人を選任させるという制度です。
任意後見契約とは、委任契約の一種で、本人(以下「委任者」ともいいます。)が、受任者に対し、将来認知症などで自分の判断能力が低下した場合に、自分の成年後見人になってもらうことを委任する契約です。
認知症に罹患するなどして、判断能力が低下すると、自分の財産の管理ができなくなり、いくら財産を持っていても、自分では生活費の支払ができなくなったり、紛失したり、詐欺によって奪われるような事態になる可能性もあります。
そこで、あらかじめ、自分の判断能力が低下した場合に備えて、自分がそういう状態になったときに、自分に代わって、財産管理や必要な契約締結等を自分の信頼できる人に委任しておけば、全てその人(「任意後見人」といいます。)に任せることができます。
このように、自分の判断能力が正常なうちに、自分が信頼できる人を見つけて、その人との間で、自分の判断能力が衰えてきた場合等には、自分に代わって、財産管理や必要な契約締結等をすることを依頼し、引き受けてもらう契約が、任意後見契約です。
このように本人の自由な意思(任意)を尊重できるのが任意後見制度の特徴であり、利点です。
2.任意後見契約の成立と内容
任意後見契約の成立
任意後見契約を締結するには、「任意後見契約に関する法律」という法律によって、法務省令で定める様式の公正証書でしなければならないことになっています(同法3条)。
つまり、委任者と受任者が自分たちの間で契約書を作成しても、公正証書にしなければ、有効な任意後見契約とは認められません。
その理由は、本人の意思をしっかりと確認する必要があることと、契約の内容が法律に反したものになることを防止する必要があるため、公証人が作成する公正証書によらなければならないと定められているのです。
任意後見契約の内容
任意後見人の仕事は、大きく分けて二つあります。
一つは、本人の「財産の管理」です。自宅等の不動産、預貯金等及び年金の管理、税金や公共料金の支払などです。
もう一つは、「介護や生活面の手配」です。要介護認定の申請等に関する諸手続、介護サービス提供機関との介護サービス提供契約の締結、医療契約の締結、入院の手続、老人ホームへ入居する場合の体験入居の手配や入居契約を締結する行為などです。
以上のように、任意後見人の仕事は、本人の財産を適切に管理するとともに、介護や生活面のバックアップをすることです。なお、任意後見人の仕事は、自分でおむつを替えたり、掃除をしたりという事実行為をすることではなく、あくまで介護や生活面の手配をしてあげることです。
任意後見契約は、契約ですから、契約自由の原則に従い、当事者双方の合意により、法律の趣旨に反し、違法・無効でない限り、自由にその内容を決めることができます。
3.任意後見人
任意後見人の資格
成人であれば、誰でも、自分の信頼できる人を、任意後見人にすることができます。身内の方でも、友人でも問題ありません。
ただし、法律がふさわしくないと定めている事由のある者(破産者、本人と訴訟をした者、不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由のある者(例えば金銭管理をする能力が不十分な人))(法4条1項3号、民法847条)は任意後見人になることはできません。
身近に任意後見人にふさわしい人がいない場合、弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門家に依頼することができます。また、法人(例えば、社会福祉協議会等の社会福祉法人、リーガルサポートセンター、家庭問題情報センター等々)に後見人になってもらうこともできます。
任意後見人の任務開始
任意後見契約は、本人の判断能力が衰えた場合に備えてあらかじめ結ばれるものですから、任意後見人の任務は、本人がそういう状態になってから始まることになります。
具体的には、任意後見人になることを引き受けた人(「任意後見受任者」といいます。)や親族等が、家庭裁判所に対し、本人の判断能力が衰えて任意後見事務を開始する必要が生じたので、「任意後見監督人」を選任してほしい旨の申立てをします。そして、家庭裁判所が、任意後見人を監督すべき「任意後見監督人」を選任しますと、そのときから、任意後見受任者は、「任意後見人」として、契約に定められた任務を開始することになります。
任意後見人に対する監督
任意後見人としての任務が開始されると、任意後見人には、本人の財産を管理する権限が与えられます。それでは、任意後見人に、財産を使い込まれる心配はないのでしょうか。
まず、任意後見人は、あなた自身が、自分で選ぶことができるのですから、受任者は真に信頼できる人かどうかをよく吟味して選ぶことがとても大切です。
しかも、前記のように、任意後見人の任務は、家庭裁判所によって、任意後見監督人が選任された後に初めて開始されます。したがって、任意後見監督人が、任意後見人の仕事について、それが適正になされているか否かを監督しますし、任意後見監督人からの報告を通じて、家庭裁判所も、任意後見人の仕事を間接的にチェックする仕組みになっています。
そして、任意後見人に、横領等の著しい不行跡、その他任務に適しない事由が認められたときは、家庭裁判所は、本人、親族、任意後見監督人の請求により、任意後見人を解任することができることになっています。
以上のとおり、任意後見制度は、制度的に、後見人に使い込みなどをされる危険は少ない制度といえます。
以下、詳細ページのご案内です。
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- 高齢者福祉サービスの内容1(訪問介護サービス)
- 高齢者福祉サービスの内容2(通所介護サービス)
- 高齢者福祉サービスの内容3(介護施設サービス)
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- 介護保険制度とは(総論)
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- 施設利用料の滞納
- 施設運営での注意点1(総論:法令上の義務)
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