1.設計事務所の種類
設計事務所にも規模や役割に応じていくつかの種類があります。
組織設計事務所
組織設計事務所は、意匠、建築構造、建築設備、エンジニアリングシステムなどの設計業務を行い、また工事監理業務(後述)も行うことができる比較的規模の大きい設計事務所です。
特に官公庁や大企業が発注する大型案件を得意としています。
個人設計事務所(アトリエ)
個人設計事務所は、規模は比較的小さく、業務内容は事務所によって様々です。例えば、有名建築家が代表を務め、建築家の芸術性が大きく反映された設計を行う事務所の場合であれば、設計される案件は採算性よりも芸術性が重視される傾向があります。
一方、芸術性の追求を目的とせずに、小規模な個人住宅の設計をローコストで行うような事務所もあります。
ゼネコンの設計部門
ゼネコンの多くは設計部門を有しています。通常は設計業務のみ受注することはなく、ゼネコンとして設計施工を一体として受注することにより工事コスト全体の引下げと工期の短縮ができる点を強みとしています。
2.発注方式
設計業務を、組織設計事務所や個人設計事務所のような設計事務所に発注するのか、あるいはゼネコンに発注するのかによって、次のように発注方式が異なります。
分離発注方式
分離発注方式とは、設計業務を設計事務所に発注し、施工業務をゼネコン等の施工業者に発注する方式です。
メリットとして、設計事務所のノウハウを発揮しやすい、設計と施工のコストが明確になる、施工業者の選定が自由に行える、設計事務所による工事監理が適切に行われることが期待できることなどが挙げられます。
デメリットとしては、工事に瑕疵が発生した場合、設計と施工のどちらに責任があるのかが曖昧になる、総事業費が高額になる可能性がある、工期が長くなるなどがあります。
一括発注方式
一括発注方式とは、施工業者であるゼネコンに設計から施工までを発注する方式です。
メリットとして、施工を視野に入れた設計ができ工期が短縮できる、バリュー・エンジニアリング(機能や品質を維持しつつコスト削減のために工法等を改善する手法)やコストダウンを設計に織り込み、工事費を圧縮できる、瑕疵が生じた場合、設計も施工も同一の業者のため、責任の所在が明確になることが挙げられます。
デメリットとしては、施工業者の利益を優先した設計になる可能性がある、発注先が設計部門を有するゼネコンに限られるなどがあります。
デザインビルド方式
デザインビルド方式とは、分離発注方式と一括発注方式との折衷的な方式です。
設計業務のうち、企画設計を設計事務所に発注し、実施設計と施工をゼネコン等に発注する工事の発注方式です。
メリットとデメリットは分離発注方式と一括発注方式のそれぞれと同様です。
3.設計事務所の役割と責任
設計事務所は、企画設計から実施設計までを行い、発注者が正確に工事内容を理解した上で施工業者と契約を締結できるように、詳細な実施設計図書を作成することが主な業務です。
実施設計図書の内容は極めて専門的であるため、専門的知識のない発注者が、自ら実施設計図書の仕様どおりに施工されているか否かを確認することは困難です。そのため、設計事務所は発注者に代わり、施工業者が実施設計図書の仕様どおりに施工しているかについて現場において確認する工事監理業務を行うことがあります。
「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいいます(建築士法2条8号)。
発注者は、設計事務所に工事監理業務を任せることにより、施工業者による手抜き工事やずさんな管理を防止し、引渡し後のトラブルを減少させることができます。
工事監理者である建築士が工事監理を怠った場合
工事監理者である建築士は、自己の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認する義務を負っています(建築士法2条8号)。
工事監理者である建築士がこの義務に違反したことによって、工事が設計図書のとおりに実施されていないことを見逃し、建物に欠陥が生じた場合、建築士は、発注者から不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を受ける可能性があります。
さらに、建築士が発注者と工事監理契約を結んでいた場合は、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)も受ける可能性があります。
後者の場合、契約上の義務を怠ったことになるため、前者の場合に比べ、責任が認められやすくなっています。
工事監理を行い、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めたが、その後の義務を怠った場合
建築士は、工事監理を行う場合において、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに、工事施工者に対して、その旨を指摘し、工事を設計図書のとおりに実施するよう求め、工事施工者がこれに従わないときは、その旨を建築主(発注者)に報告する義務を負っています(建築士法18条3項)。
工事監理者である建築士がこれらの義務のいずれかに違反し、それによって工事が設計図書のとおりに実施されず、建物に欠陥が生じた場合、建築士に対して、前項の場合と同様に、不法行為に基づく損害賠償請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求を受ける可能性があります。