1.建設業界は残業が多い
ある転職情報サイトの残業時間に調査によると、「建設業界」は全95の職種の中で、残業時間が3番目に長いという結果でした。
建設業界における1か月あたりの平均残業時間は51.3時間とされ、建設業の上には映像関連、編集職と長時間残業で有名な職種しかありません。51.3時間というのはあくまで平均値であり、企業によっては100時間を超える残業も珍しくありません。
平成29年、新国立競技場の建設現場で現場監督をしていた23歳の新入社員が過労自殺するという痛ましい事件が起こりました。新宿労働基準監督署は、男性の死を労災と認めました。
男性は同年3月2日、突然失踪し、4月15日に長野県で「身も心も限界」などと書かれた遺書とともに、遺体で発見されました。
労働基準監督署は、競技場の入退出記録や関係者の証言などから、男性が失踪する直前の1カ月(1月31日〜3月1日)の時間外労働を190時間18分と認定し、業務を原因とした精神疾患に起因するとして、労災と判断した。なお、1月1日〜1月30日の残業時間は160時間05分でした。
このように、建設業界では残業時間が極めて長いのが特徴です。さらに、
- サービス残業も多い
- 会社の規模に関わらず残業が多い
という傾向があります。
業界全体が残業体質で、長時間残業が珍しくないため、残業時間の多くがサービス残業となっていることが慣例化しており、社員も「ほかも一緒だから」と受け入れてしまいがちです。
また、下請の小さな会社だけでなく、中堅から大手ゼネコンクラスの大企業でも残業が常態化しているのがこの業界における残業の実態です。
2.残業が多い理由
建設業界でこれほど残業が長くなるのには、業界全体の体質や慣例が関わっています。
具体的には、下記のような点が建設業の仕事を過酷にし、社員の残業時間を長くする一因になっています。
残業が多くなる原因
短納期でも工期を伸ばせない
建設現場では、依頼主から「いつまでに完成させてほしい」と納期が設定されます。
遅れると違約金が発生し、依頼主との今後の取引にも影響してきます。そのため、施工会社にとっては、納期は絶対に守らなければいけない目標です。
また、業界内での競争が激しく、多少スケジュールが厳しくても依頼を受けることが多く、結果として現場の長時間労働を招く一因となっています。
他社との競争が激しい
1990年代初頭のバブル期に比べると、国内の工事受注件数は半減していると言われており、業界内での競争が厳しくなっています。
工事を受注するためには、短納期や安い工事費でも受け入れなければいけない場面もあり、こうしたしわ寄せは現場で働く人々に及びます。
業界全体の人手不足
建設業界では、長らく人手不足が叫ばれています。他の業界も含めた全体では仕事に就く人の数はほぼ変わっていないのに対し、建設業界は右肩下がりになっています。この人手不足に加えて、最近では2020年のオリンピックに向けた建設ラッシュも加速し、現場で働く人の仕事料が増え、結果として残業時間が増えることになっています。
中でも特に深刻なのが若手の不足です。建設業においては、個々の仕事ごとに技術と経験が必要とされる場面が多いにもかかわらず、高齢化している熟練工に続く若手が育っていないことが大きな問題となっています。
建設業は、いわゆる「3K」の代表というイメージを持つ若い人が多く、過酷な仕事と認識されているため、就職人数が少なく、会社に入ってもすぐに辞めてしまう人が多いです。建設の職場では中堅以上の社員が多くても若手が圧倒的に足りなくなっています。
また、若手社員は、ほかにも覚える仕事が多く、会社に戻ってから行う事務作業の量も膨大になるため、残業が長くなってしまうのです。
変わらない業界の体質
建設業界は、伝統的に社風が体育会系の面があります。
上司から
「残業して当然」
「昔はもっと仕事をした」
などと言われることが多いと言われています。
上司は自分たちが経験した働き方を部下にも求める傾向があり、長時間のサービス残業を当然のものとする空気ができてしまいがちです。
3.建設業における残業の法的問題
建設業には残業時間の上限がない
社員を残業させるためには、会社側が社員と「36協定(サブロク協定)」と呼ばれる協定を結ぶ必要があります。
36協定では残業時間の上限も決められていますが、次の4つの業務については適用除外とされています。
- 工作物の建設等の事業
- 自動車の運転の業務
- 新技術、新商品等の研究開発の業務
- 厚生労働省労働基準局長が指定する事業または業務
建設業は上記の1つ目に当てはまります。
建設業は、季節によって業務量の差が大きく、天候などの条件にも進捗が左右されやすいため、残業時間の上限規制が適用されないこととされています。
残業時間の「上限」はなくても残業代は発生する
建設業では、残業時間の上限時間はありませんが、残業時間の上限と残業代の支払については分けて考える必要があります。
会社側が社員に「1日8時間、週40時間」を超えて仕事させた場合は「残業代」を支払わなければいけません。
そのため、以下のような理由で残業代の支払いを行わないことは違法になる可能性があります。
- 会社が命じていない自主的な仕事には残業代が出ない
- タイムカードなどで管理されていないので残業時間が把握できない
- 現場監督は管理職だから残業代が出ない
- 給与に残業代が含まれているので、別に残業代は出ない
例えば、管理職だから残業代が出ないという理由については、訴訟になった場合「名ばかり管理職」だったと認められ、残業代の支払を命じられることがあります。
残業代の請求を受けた場合は、自社だけで対応が困難な場合もあります。そのような場合は、企業側の代理人として多くの労働問題を取り扱っている当事務所に是非ご相談ください。