従業員の採用
1.従業員募集の注意点
従業員を採用し、労働契約を締結する際には労働条件を明示しなければなりません(労働基準法15条1項)。
明示すべき事項は労働基準法施行規則5条1項に規定されている以下の事項です。
- 労働契約の期間に関する事項
- 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
- 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
また、これらのうち、(1)から(5)((4)のうち、昇給に関する事項を除く。)については書面の交付により明示しなければなりません。
なお、明示された労働条件が事実と相違する場合においては、従業員は、即時に労働契約を解除することができ、従業員が就業のために転居していた場合、契約解除の日から14日以内に帰郷するときは、店舗の側で必要な旅費を負担しなければなりません(同条2項、3項)。
2.有期労働契約、パートタイム契約の特則
労働契約法の改正を受けて、平成25年4月1日からは、有期労働契約については「更新の有無」と「契約更新の判断基準」も書面により開示すべきこととされています(「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」参照)。
さらに、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(通称「パートタイム労働法」)では、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、所定労働日以外の日の労働の有無、所定労働時間を超えてまたは所定労働日以外の日に労働させる程度等についても文書の交付等により明示するよう求められています(同法6条、同法施行規則2条等)。
ところが、飲食店では労働条件通知書を使わず口頭で説明するだけの場合が多く、仮に労働条件通知書があっても昔からのものを改定せずに使っている場合が大半です。
上記の条件が満たされているか改めて確認し、不足があるようであれば、改定する必要があります。
パートタイマー採用時の注意点
- パートタイマーの雇用期間については、期間を定めておくのが一般的です(2~6か月)。多くのパートタイマーは勤務地を限定することを望みますが、店舗の統廃合が予想される場合は、転勤の可能性も明示しておくべきです。
- 業務の内容については、厨房、接客などと具体例を示した上で「及びこれに付随・関連する業務」と記載することによって、飲食店での業務全般をほぼカバーできます。
- 季節によって労働時間が延びたり短くなったりすることがあるようであれば、「業務の都合により労働時間を延長又は短縮することがあります」と明示する必要があります。
- また、雇用契約更新の際に、営業の状況や本人の勤務成績等を勘案して賃金の増減や労働条件の変更があることも明記しておくべきです。
3.従業員に提出させる書類
従業員を採用する際には、雇用契約書以外にさまざまな書類を提出してもらいます。
一般的には、「身分証明書のコピー」、「身元保証書」、「誓約書」、「扶養控除申請書(扶養する親族がいる場合)」、「源泉徴収票(転職者の場合)」、「年金手帳」、「雇用保険被保険者証(転職者の場合)」、「給与振込依頼書」などを提出してもらいます。
飲食店でも従業員は会計時などお金を扱う機会が多いので、採用に際しては「身元保証書」を取得してください。
この時、自己の親兄弟の名前を勝手に記載する者もいるので、そうした事態を防止する方法として、身元保証人宛にお礼状を出すことが有効です。
飲食店経営者の中には、身元保証書を取っておけば従業員の不祥事について無制限に保証人に対して賠償請求できると考えている方もいます。
しかし、身元保証書による保証期間は期間を定めなかった場合は原則として3年間、期間を定めた場合は最長で5年間となり、それより長い期間を定めた場合も5年間に短縮されます(身元保証ニ関スル法律1条、2条)。
身元保証契約の更新は可能ですが、期間を定めていなかった場合、3年経過後も契約が有効と考えて更新をしていない場合が多いので、注意が必要です。
また、賠償額についても、身元保証人の責任は限定されることが多くなっています(東京地方裁判所昭和44年10月7日判決、神戸地方裁判所昭和61年9月29日判決等)。
4.誓約書に盛り込むべき内容
誓約書は誠実勤務、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務(同種事業に従事しないことの約束)などを誓約する旨のものが一般的となっています。
また、最近はインターネット等で勤務先の内情を暴露したり、会社を誹謗中傷したりする者もいるので、そうした行為を禁止する旨の文言を入れる誓約書もあります。
飲食店では郊外の店舗に勤務する場合も多く、自動車やバイクでの通勤がよく利用されます。そのような場合は、正社員はもちろんのことパートタイマーからも、通常の誓約書とは別に交通法規を順守する旨の誓約書を取るようにしましょう。その際、「運転免許証」「自賠責保険」「任意保険証書」のコピーとともに、「運転経路」の図表も提出を求めます。
最近は、各都道府県で暴力団排除条例が施行される等、反社会的勢力との関係を遮断することが社会的な要請となっています。反社会的勢力ではないこと及び反社会的勢力と関係を持たないことについても誓約書の提出を求める必要があります。