立退きを求められた場合の対応
契約違反をしていないのに、賃貸人から立ち退きを求められてしまいました。どのように対応したらよいのでしょうか、というご質問をいただくことがあります。
賃借人の契約違反がない場合、賃貸人は「正当事由」がなければ賃借人に立ち退きを求めることはできません。
賃貸人からの要求をそのまま受け入れるのではなく、まずは賃貸人と交渉すべきであるといえるでしょう。
ここでは、契約違反がない場合に、賃貸人から立ち退きを求められた賃借人の対応について説明します。
1.賃借人の立場
法律上、賃借人は厚く保護されています。
更新拒絶や解約申入れといった賃貸借契約の終了の場面では、借地借家法28条の「正当事由」がなければ、賃借人からの更新拒絶や解約申入れはできません。
また、正当事由があったとしても、裁判になった場合には、賃貸人に対して相当額の立退料を支払うことを命じる判決が出ることも多くあります。
一般的に、この種の事案では、賃貸人側は賃借人に少しでも早く立ち退いてもらい、紛争を早期に解決することを望んでいる場合が多いです。他方、賃借人は少しでも長くその建物を利用したい場合が多いと言えます。
つまり、紛争が長期化することによる不利益は、賃貸人の方が大きいといえます。
これらの点から、賃借人は、立ち退き交渉を進める上では、賃貸人と比べて有利な立場にあるようにも思われます。
もっとも、実際に賃貸人から退去を強く迫られているような場合や、賃貸人側に弁護士がついているような場合には、賃借人が単独で交渉を続けるのが難しい場合が多いと言えます。
このような場合には、賃借人の側も弁護士に交渉を依頼することをお勧めします。
2.通知の期間
賃貸人から事前に何の予告もなく、突然「2か月以内に出て行ってくれ」といったことを通告されるような事例もあります。
もっとも、このような通告をされたとしても、以下に挙げる法定の要件を満たしていない限り、契約を終了させる効果は生じません。
期間の定めのある賃貸借契約の場合、期間満了の1年から6か月前までに、賃貸人は賃借人に対し、更新拒絶の通知をする必要があります。
この期間が経過した場合、契約は法定更新されることになります。
期間の定めのない賃貸借契約の場合、賃貸人は、賃貸人に対して解約申入れをします。
解約申入れから6か月後に契約は終了します。
いずれの場合も、契約期間満了後または解約申入れから6か月経過後に賃借人が建物の使用を続けている場合、賃貸人は遅滞なく異議を述べる必要があります。
この異議がないと、賃貸人が賃借人の使用を承諾したとみなされる場合があります。
以上のように、賃借人に契約違反がない場合、賃貸借契約を終了させるためには、短くても通知をしてから6か月の期間が必要となります。
つまり、賃貸人から事前に何の通知もなく「2か月以内に退去してくれ」と言われたとしても、賃貸人の申し入れが法定の要件を満たしていないことから、その期間内に退去する必要はありません。
3.正当事由
賃貸人が更新拒絶や解約申入れにより賃貸借契約を終了させるためには、借地借家法28条の「正当事由」を備えている必要があります。
正当事由の有無は、
1.建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む)がそれぞれ当該建物の使用を必要とする事情のほか、
2.建物の賃貸借に関するこれまでの経過
3.建物の利用状況
4.建物の現況
5.建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として立退料の支払いを申し出た場合にはその申出
といった要素を総合的に考慮して判断されます。
このうち、最も重要な判断要素は1.の建物使用の必要性となります。2.から4.は補助的な判断要素で、5.の立退料は正当事由を補完するものとして位置づけられています。
すなわち、賃借人の建物使用の必要性が大きく、賃貸人側の必要性を上回るような場合には、正当事由は認められにくい傾向にあります(特に賃借人の居住の必要性が高い場合は有利になります)。
また、正当事由がある程度認められる場合でも、賃貸人が賃借人に対し、相当額の明渡料を支払うことを求められる場合もあります。
このように、賃借人は、自身が建物を使用する必要性が高いこと等を説得的に主張することにより、有利な条件で明渡しの合意をすることが期待できます。
建物明渡をめぐっては、法律の要件を満たしていないにもかかわらず、賃借人に対して一方的に立ち退きを強要するような賃貸人がいるのも事実です。
このような賃貸人側の無理な要求に泣き寝入りしてしまうことのないよう、賃借人側も弁護士に相談することをお勧めします。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。