借地借家法の適用
1.借地借家法が適用される要件
建物の貸し借りのすべてに借地借家法が適用されるわけではありません。
借地借家法が適用されるのは、当該建物が「借家」、すなわち「建物の賃貸借」にあたる場合です。
貸し借りの対象が「建物」とはいえない場合や、建物を無償で貸している場合には、借地借家法は適用されません。
一般的な建物の賃貸借の場合、「借家」にあたるものとして扱われるのが原則です。
例外として、一時使用目的の賃貸借(借地借家法40条)や、解釈上「建物」に該当しない場合は,借地借家法は適用されません。
「借家」と認められるケースでは、民法上の賃貸借よりも借地借家法の規定が優先され、借主が保護されることになります。
逆に、借地借家法の適用がない場合はこれらの借主保護が適用されないことになります。
そのため、借地借家法の適用の有無自体が争われる事例も少なくありません。
以下では、借地借家法が適用される要件について解説します。
2.「建物」の賃貸借契約であること
借地借家法における「建物」とは、土地に定着し、壁、屋根を有し、住居、営業などの用に供することのできる建造物で、独立の不動産として登記できる物をいいます。
建物は構造上、経済上独立していることが必要です。他の区画と明確に区別されておらず、誰もが自由に利用できるような場所は、独立した「建物」であるとは認められません。独立性が認められれば、一棟の建物の一部の賃貸借契約であっても、借地借家法が適用されます。
例として、アパートやビルの一室の賃貸借契約が挙げられます。
また、「建物」であれば、その種類、構造、用途を問わず、借地借家法が適用されます。
アパートなどの居住用建物の賃貸借契約だけでなく、オフィスや倉庫のような事業用建物の賃貸借契約も適用対象となります。
もっとも、立体駐車場については「建物」にあたらないとして、借家法の適用を否定した判例もあります(東京地法裁判所昭和61年1月30日判決)。
このように、賃貸借の対象となる物件が借地借家法上の「建物」と認められるかについては、一見して明らかであるとは言い難く、後に争いになるケースも少なくありません。
なお、借地借家法の適用があるのは、建物利用の対価として賃料が支払われる「賃貸借契約」であり、借主に無償で建物を使用させる契約(使用貸借契約)には適用がありません。
賃貸借契約と使用貸借契約の区別は、賃料相当額の金銭の支払があったかどうかによって判断されます。もっとも、賃貸借と使用貸借の区別が曖昧な事例もあり(特に親族間で建物利用の合意をしていた場合等)、この点をめぐって紛争となるケースもあります。
3.一時使用目的の賃貸借について
借地借家法40条は、「この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。」と定めています。
すなわち、一時使用のためになされたことが明らかな賃貸借契約には、借家に関する規定が適用されないことになります。
もっとも、どのような賃貸借契約であれば「一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らか」であるといえるかについては、画一的な判断基準があるわけではありません。
最高裁判所は、一時使用目的であるか否かの判断基準について、「必ずしもその期間の長短だけを標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機その他諸般の事情から、当該賃貸借契約を短期間に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される」 ことが必要である、と判示しています(最高裁判所昭和36年10月10日判決)。
この判例はいくつかの判断要素を挙げていますが、類似の事案で異なった結論が出された例もあり、実際にはケースバイケースの判断にならざるを得ないといえます。
一時使用のためになされたことが明らかな建物賃貸借契約の具体例としては、以下のようなものがあります。
1.家主側に賃貸建物を将来利用する具体的計画があるため、使用期間を一時的とした場合
2.家主側に賃貸建物を取り壊す具体的予定があるため、使用期間を一時的とした場合
3.建物利用関係に争いが生じ、裁判上の和解、調停により短期の借家期間が定められた場合
逆に、家主側の将来の利用予定や計画が相当程度具体的になっていない事案においては、一時使用目的が否定される傾向にあります。
なお、現行法である借地借家法においては、一定期間に限って建物を賃貸借する「定期借家契約」が規定されています。
一定期間経過後に必ず契約を終了して建物を明け渡してもらいたい場合には、この定期借家制度を利用することが望ましいでしょう。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。