迷惑行為(騒音・暴力など)と解除
「賃借人に賃料の不払い等はないが、賃借人が迷惑行為等を行い近隣住民から苦情が出ている」といった事例もあります。
特にアパートなどの集合住宅の場合、被害が深刻となります。
そのため、アパート等の共同住宅の賃貸借契約では、賃借人の近隣の迷惑となる行為(義務違反の程度)が著しく、それにより賃貸人と賃借人間の信頼関係が破壊されるに至っているような場合は、賃貸人は催告することなく賃貸借契約を解除することができるとされています(東京高等裁判所昭和61年10月28日判決)。
この解除は、賃貸人と賃借人の間で迷惑行為を禁止する特約がない場合でも認められます。
1.迷惑行為と契約解除
(1) 賃借人の義務
賃借人は、契約又はその目的物の性質によって定まる用法に従い、賃借物を使用収益する義務を負っています(民法第594条、同法第616条)。
そして、建物賃貸借契約における目的物(アパートの部屋など)は、入居者が日常生活を過ごす場であることから、賃借人は、他の入居者や近隣の住民の平穏な生活を妨げることのないように部屋を使用することが求められています。
そのため、賃借人が夜中に騒音を発生させたり、大声で騒いだりすることは、他の入居者の平穏を害する迷惑行為であり、賃借人の用法遵守義務違反に該当します。
よって、賃貸人の再三にわたる制止を無視して、賃借人が、近隣への迷惑行為を繰り返すような場合には、賃貸人は賃借人の用法遵守義務違反を理由として契約を解除し、部屋の明け渡しを請求することができます(同法第541条)。
なお、契約解除が認められる騒音等の迷惑行為があるかについては、日常生活する上で、受忍すべき限度を超えるか否かにより判断されます。
そのため、日常生活上やむを得ない軽微な生活音や、近隣の平穏な生活を妨げない些細な行為のみでは、契約の解除は認められないといえます。
(2) 迷惑行為による解除が認められた裁判例
賃借人の迷惑行為による契約解除が認められた事例としては以下のようなものがあります。
・賃借人が天袋の中にラジオを置いて音量を一杯にしてアパートの他の居住者に迷惑をかけるなどの異常行動に出た場合(東京地方裁判所昭和54年11月27日判決)
・マンション内の店舗で住民の迷惑になるカラオケ騒音を出した場合(横浜地方裁判所平成元年10月27日判決)
・賃借人が故意に隣室の壁をたたいたり、大声で怒鳴ったりするなどの嫌がらせ行為を続け、隣室の入居者を退去させた事案(東京地法裁判所平成10年5月12日判決)
2.迷惑行為と賃貸人の義務
(1) 賃貸人の責任
賃貸人が、他の入居者に対する賃借人の迷惑行為を放置した場合、賃貸人も責任を負うことになる可能性があります。
賃貸人は賃料を受領する代わりに、賃借物を使用収益させる義務を負っています。
賃貸人は、全ての入居者が、平穏にかつ安心・安全に生活できる環境を提供しなければなりません(民法第601条)。
何らかの要因により賃借人の使用収益が妨げられている場合には、賃貸人はその要因を取り除く必要があります。
また、賃借人に居住に適さない状態が生じたときは、それを解消し、居住に適する状態にする義務を負っています。
以上のことから、賃貸人には、アパートに居住する他の賃借人が迷惑を被ることの無いように、迷惑行為を行う賃借人に対し、その行為をやめさせる義務があるといえます。
賃借人の迷惑行為が何度も繰り返されても、賃貸人が何らの対応や対策を講じないときは、迷惑を被る他の賃借人に対し、賃貸人は、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償義務を負う場合があります。
(2) 分譲マンションの区分所有者の場合
また、アパートの経営者(大家)である賃貸人だけでなく、分譲マンションの一室を所有している区分所有者であっても、自己所有の部屋を賃貸する場合は同様の義務を負います。
実際に、賃貸人である区分所有者が、賃借人の迷惑行為を放置していた場合、賃貸人の不作為自体が不法行為とされ、損害賠償請求が認められた裁判例があります(東京地方裁判所平成17年12月14日判決)。
3.賃貸人に対する暴力行為等がある場合
近隣住民に対する迷惑行為はないけれども、賃貸人に対する暴力行為等がある場合、契約を解除できるのかが問題となります。
このような事例では、厳密には「賃貸借契約における義務違反」があったとはいえません。
もっとも、賃借人の行為が賃貸人との信頼関係を破壊させるものであれば、賃貸借契約を解除しうると考えられています。
ただし、賃借人と賃貸人の感情的な対立から紛争が生じ、互いに暴行を加えたという事案で解除が認められなかった例もあり、賃貸人への暴力行為のみにより解除が認められるケースは限定的であると考えられます。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
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