賃貸借契約の解除事由
ここでは、賃借人に義務違反があり、契約を解除する場合について説明します。
賃借人に賃料不払い、用法違反、保管義務違反等の債務不履行ないし契約上の義務違反があれば、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます。
ただし、判例は、賃借人の債務不履行ないし契約上の義務違反が貸主と借主の 「信頼関係」の破壊にあたる場合に限って解除を認めるとして、解除に一定の制約を加えています(信頼関係破壊の法理)。
そのため、建物明渡訴訟となった場合、賃貸人は「信頼関係の破壊があった」といえる事情を主張する必要があります。
いかなる場合に信頼関係の破壊が認められるかはケースバイケースですが、ここでは各類型ごとに代表的な事例を紹介します。
1.家賃の不払い
実務上、賃借人の義務違反で最も多いとされるケースが家賃の不払いです。
滞納期間が長くなるほど損害が拡大するため、賃貸人にとっては深刻な損失となります。
(1) 法律及び判例の考え方
判例上、借家人が家賃を滞納しているときでも、賃料不払いによって賃貸人との間の信頼関係を破壊するに至ったといえない場合には解除は認められません。
どのような場合に信頼関係を破壊するといえるかどうかについては、賃料不払いの回数だけでなく、不払いの額、賃借人側の態度、賃貸人側の態度などの諸事情が判断の資料となります。
一般的には、2か月以上の賃料の滞納があれば解除が認められやすい傾向にあり、6か月程度の滞納があれば、よほど特殊な事情がない限り解除が認められます。
詳細については賃料不払いに関する項で改めて説明します。
(2) 解除の手続
賃借人に信頼関係を破壊するに足る賃料の不払がある場合、賃貸人はまず、相当の期間を定めて滞納した賃料を支払うよう催告する必要があります。
その上で、賃借人がその期間内に賃料を支払わない場合に契約を解除することができます。
なお、催告及び解除等の意思表示は、後の紛争を避けるため、日時及び内容が記録として残る内容証明郵便を利用するのが一般的です。
2.借家権の無断譲渡、無断転貸がある場合
(1) 法律及び判例の考え方
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ第三者に賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸することはできません(民法612条1項)。
つまり、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに賃貸借契約上の賃借人の地位を第三者に移転したり、賃貸借の目的物を第三者(転借人)に又貸しする形で使用収益をさせることは禁止されています。
このような場合、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます(民法612条2項)。
なお、転貸の場合、目的物を転貸する約束をしただけでは契約解除の前提としての転貸とはいえないことから、第三者に現実に引渡しを行ったことが必要とされています。
(2) 解除の手続
解除の方法については、賃料の滞納の場合とは異なり、催告等をすることなく直ちに解除の意思表示をすることができます。
ただし、無断譲渡・転貸といえる場合でも、態様が悪質とはいえず、賃貸人に特に不利益を与えない行為の場合は、例外的に解除が認められないこともあります。
例として、賃借人が個人営業を形式上法人組織に改めたにすぎず、実質的には賃借人は変動していない場合や、近い親等の親族を住まわせた場合などがあります。
3.賃借物件の無断増改築がある場合
借家の賃借人は、賃借物の引き渡しを受けた後、返還するまで善管注意義務(一般的に求められる水準の注意を払うべき義務)をもって保管する義務があります(民法400条)。
したがって、その義務に違反して増改築がなされた場合は契約違反となり、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます。
この場合、一般的には、賃貸人は期間を定めて原状回復をするように賃借人に催告し、期間を経過しても原状回復がなされない場合には解除の意思表示をする、という手続になります。
もっとも、賃借人の増改築が大規模なもので原状回復が困難であり、信頼関係を破壊する程に背信性が高いような場合には、催告をせずに契約解除をすること(無催告解除)も可能です。
4.借家の用法違反がある場合
賃借人は賃貸借契約で定められた用法にしたがって使用収益すべき義務がありますから、用法違反があれば、これを理由に契約を解除できます。
もっとも、実質的に賃貸人に悪影響を及ぼさない場合には、背信行為とはいえないとして解除が認められない場合もあります。
5.借家の保管義務違反があった場合
賃借人は賃借物の引渡しを受けた後返還するまで、賃借物を善管注意義務をもって保管する義務があります。
したがって、賃借人が保管義務に違反した場合には、賃貸人は契約を解除することができます。
6.賃貸人と賃借人との人的信頼関係が著しく破壊された場合
賃借人の賃借物に関する直接の契約違反はない場合であっても、賃貸人と賃借人の円満な関係に破綻が生じた場合でも契約の解除が認められる場合があります。
例として、賃借人が近隣住民に対し度重なる迷惑行為(大音量で騒音を流す等の異常行動)を行っていたような事案では、裁判所も人的信頼関係の破壊を理由に契約の解除を認めています。
7.まとめ
賃借人の義務違反がある場合、早急に対処しなければ賃貸人に大きな損害が生じるおそれがあります。
このような場合には、速やかに法的対応を検討することが必要となります。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。