建物明渡しの事例解説
建物明渡請求が問題となる事案は、いくつかの類型に整理することができます。
ここでは、1.建物を有償で貸している場合(賃貸借)、2.無償で貸している場合(使用貸借)、3.契約関係がない場合(不法占拠)について、建物明渡しが問題となる具体的な内容と、その特徴について説明します。
1.賃貸借の場合
建物を有償で貸している場合がこれにあたります。
建物の賃貸借には原則として借地借家法の適用があるため、賃借人が厚く保護され、その分賃貸人の負担が大きくなります。
建物の明渡しの前提として、賃貸借契約が終了していることが必要です。
契約の終了が問題となる場面は、大きく分けて、賃借人に義務違反(契約違反)がある場合とそうでない場合があり、いずれの場合にあたるかによって方法が異なります。
賃借人に義務違反がある場合、それが「賃借人と賃貸人の信頼関係を破壊している」と認められる程度に至っていれば、契約を解除することができます。
典型的な事例は、賃借人が半年近く家賃を滞納しており、賃料不払いを理由に契約を解除して明渡しを求めるような場合です。
賃借人に義務違反がない場合、期間の定めのある契約であれば更新の拒絶、期間の定めのない契約であれば解約申入れにより契約を終了させることになります。
その際には「正当事由」が必要となります(借地借家法28条)。
例として、老朽化した建物を建て替えて新たなテナントビルを新築したいため、既存の契約を終了させて賃借人に退去を求める事案などは、正当事由の有無が問題となります。
このように、賃貸借契約における建物明渡しにおいては、1.法律及び判例が賃借人に有利であること、2.「信頼関係の破壊」「正当事由」といった抽象的要件が問題となり、判断が難しいことが特徴として挙げられます。
2.使用貸借の場合
貸主が目的物を無償で借主に使用収益させている場合がこれにあたります。
建物の使用貸借には借地借家法が適用されないため、賃貸借とは異なり、借主が手厚く保護されることはありません。
また、法律関係は民法の規定に従って処理されるため、賃貸借のような複雑な要件はありません。
もっとも、使用貸借は親族等の近しい関係にある人々の間で行われることが多いという性質があります。
そのため、契約書等がなく、当事者間の法律関係が不明確な状態になっている事例が多数あり、紛争になった場合は早期の解決が難しい傾向にあります。
典型的な事例として、貸主が所有する建物に親族や交際相手などを住まわせている事案で、相続や人間関係の不和が生じたことにより建物の返還を求めるような場合があたります。
このように、使用貸借の特徴は、1.借地借家法が適用されないため、借主が強く保護されるのではないこと、2.当事者間の権利義務関係が曖昧な場合が多く、紛争に発展しやすいこと、があげられます。
3.契約関係がない場合
建物所有者と建物を占有している人間の間に法律関係がない場合です。
この場合、占有者には占有権原(占有者の占有の根拠となる権利)がなく、不法占拠となっている場合がほとんどです(例外として、長期間にわたり占有状態が続いている場合、占有者が権利を時効取得している可能性もあります)。
この場合、建物の所有者は自身が建物の所有権を有していること、相手方が当該建物を占有していることを主張立証すれば、明渡しの判決を得ることができます。
そのため、上で述べた類型と比べると、解決は容易です。
例として、自己所有の建物に第三者が勝手に居住している場合や、賃貸借契約を解除した後も賃借人が建物から退去しない場合などがあります。
4.まとめ
建物明渡事件は、いずれの類型であっても、当事者間の話し合いによる解決ができない場合、最終的には建物明渡請求訴訟となります。
そのため、訴訟に至った場合には、貸主(所有者)が明渡しを求める判決を得て、それでも借主(占有者)が任意に退去しない場合は強制執行をする、という点では共通しています。
もっとも、いずれの類型であるかによって、適用される法律や交渉の進め方、訴訟において主張立証すべき内容が大きく異なります。
また、事実関係をしっかりと調査し、それぞれの事案における事情を十分に踏まえた上で交渉や訴訟に臨む必要があります。
こうしたことから、建物明渡の事案は、専門性の高い法律問題といえるでしょう。
【注意】
弊所では、居住用物件については貸主様からのご相談・ご依頼のみをお受けしております。
居住用物件の借主様からのご相談・ご依頼(マンション・アパートを借りていらっしゃる方からの退去交渉等のご相談・ご依頼)は受け付けておりません。予めご了承ください(債務整理としてご相談をお受けすることは可能です)。
なお、テナント物件(事業用物件)については、貸主様・借主様いずれの方からもご相談・ご依頼をお受けしております。